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出会い系バー報道と報道界の病理

最近の新聞紙面では、前川喜平・前文科省事務次官が注目をかっさらっている。

既にネット界隈ではさまざまな話題と臆測が流れているが、件の読売新聞記事について現役新聞記者として冷静に分析してみたい。記事は以下の通りだ。少し長いが引用する。


辞任の前川・前文科次官、出会い系バーに出入り
記事リンクはこちら

文部科学省による再就職あっせん問題で引責辞任した同省の前川喜平・前次官(62)が在職中、売春や援助交際の交渉の場になっている東京都新宿区歌舞伎町の出会い系バーに、頻繁に出入りしていたことが関係者への取材でわかった。

 教育行政のトップとして不適切な行動に対し、批判が上がりそうだ。関係者によると、同店では男性客が数千円の料金を払って入店。気に入った女性がいれば、店員を通じて声をかけ、同席する。

 女性らは「割り切り」と称して、売春や援助交際を男性客に持ちかけることが多い。報酬が折り合えば店を出て、ホテルやレンタルルームに向かうこともある。店は直接、こうした交渉には関与しないとされる。

 複数の店の関係者によると、前川前次官は、文部科学審議官だった約2年前からこの店に通っていた。平日の午後9時頃にスーツ姿で来店することが多く、店では偽名を使っていたという。同席した女性と交渉し、連れ立って店外に出たこともあった。店に出入りする女性の一人は「しょっちゅう来ていた時期もあった。値段の交渉をしていた女の子もいるし、私も誘われたことがある」と証言した。

 昨年6月に次官に就いた後も来店していたといい、店の関係者は「2~3年前から週に1回は店に来る常連だったが、昨年末頃から急に来なくなった」と話している。

 読売新聞は前川前次官に取材を申し込んだが、取材には応じなかった。

 「出会い系バー」や「出会い系喫茶」は売春の温床とも指摘されるが、女性と店の間の雇用関係が不明確なため、摘発は難しいとされる。売春の客になる行為は売春防止法で禁じられているが、罰則はない。

 前川前次官は1979年、東大法学部を卒業後、旧文部省に入省。小中学校や高校を所管する初等中等教育局長、文部科学審議官などを経て、昨年6月、次官に就任したが、天下りのあっせん問題で1月に引責辞任した。



これが5月22日付朝刊の第一社会面肩(左側、4コマの隣)に掲載された。一般読者がこれを読めばすんなりと「けしからん」となるかもしれない。確かに、文科省の官僚トップがこのような場所に出入りしていれば不適切とする見方もあろう。学校の先生が風俗に行くことを良しとしない風潮と同じだ。ただ、この記事、記者としては違和感を覚えるポイントがいくつかある。

新聞社は常に訴訟リスクを抱えながら取材をしている。なので、相手の行為が違法なのか、違法でないとすればどういう点で倫理観にもとるのか、公僕として不適切なのかを記者なりに、会社なりに追及する。

この"裏取り"の作業に関し、もっとも厳しく、徹底的にリスクを排するのが業界内で読売新聞だ。これは新聞記者にはおおむね同意いただけると思う。良く言えば徹底して事実を追及する、悪く言えば警察や政治家など公的機関からの裏付けがしっかりとれないと書かない(ケースが多い)。

記事の疑問点をざっと以下に列挙する。

①本人が何をしていたのか、本当に店に出入りしていたのか、売春行為をしたのか、核心に踏み込めていない

②本人の言い分が取れていない

③警察が捜査をしているなどの事実がない(←この有無は重要ではない。ただ、いまの報道界で警察の裏付けなしでこういう記事を書くのは珍しいという意味)

④文科次官を辞した人間であり、ニュースバリューが小さい


もっとも問題なのは①の部分だろう。週刊誌ですら、出入りした瞬間を写真で抑えない限り記事にしないようなネタだ。それすらなく、本人の証言もない。偽名を使っていたということだから、店の人には顔写真かなにかで確認をとったのだろう。店に出入りする女性ですら「値段の交渉をしていた女の子もいるし、私も誘われたことがある」との証言しかなく、本人が前川と「寝た」と言ったわけでもない。こういった類いの取材は、相手の言い分なしではとても書けたものではない。後で記者会見でもして記事を否定されれば、たまったものではないからだ。なのに、証言も取れないまま記事を出している。本来はここで「貧困問題の調査で」という証言を取り、改めて関係者に取材をしないといけない。そして、前川証言が嘘であるなら、それを証明しなくてはいけない。調査報道の大原則でだ。

これだけのリスクがありながら、ニュース的な価値はそれほど高くない。いまでこそ前川は有名になったが、記事が出た当時は加計学園問題で脚光を浴びる前だったため、ほとんどの人が顔を忘れたか知らない存在だった。リスクをとって書くほどの記事ではないのだ。社会面のベタ記事が関の山。その程度で書くなら、もう書かないという結論になるだろう。

なのに、これを破格の扱いで出した。それは記者や会社にとって、より大きなリスクがあったからに外ならないだろう。もっと恐ろしいもの、もしくは前川が否定したところでそれをはね返すほどの後ろ盾があったことを想像させる。官邸による情報のリーク、それに

前川は加計学園絡みで朝日新聞の情報源だとされている。これ以上政権が揺さぶられるのをいやがった官邸側が情報を読売に流したのは間違いないだろう。書け、という圧力付きだったかどうかは分からない。ただ、読売としては書く意味がある。なぜならライバル朝日新聞の情報源潰しにつながるからだ。

実は報道界では、まれに"他社潰し"をやる人間が現れる。他社にトクダネを頻繁に書くエース記者がいたとする。新たな情報源を開拓し、そのエースと肩を並べられれば一番良いが、それは簡単ではない。となると、そのエースを潰す、もしくはエースの情報源を潰すしかない。こういう発想になるのだ。記者の不倫情報などを週刊誌に回すだけでなく、現場を自ら写真で盗撮して週刊誌に渡すものまでいる。

いまの報道界、とくに政治部は、自分の担当政治家、官僚と親密になり、情報を取る番記者制度がとられている。その政治家の出世と記者の出世がリンクする部分まであり、一蓮托生。いかに政治家と仲良くなり、情報をもらうか。そこに、いざとなれば担当政治家を刺すなどという考えは微塵もない。その証拠に、これだけ政権が揺さぶられる事態が起こっても、安倍首相との距離の近さが指摘される有名な記者たちはなんのトクダネも書かない。

今回の前川問題は、根深い。官邸に逆らえばこうなるという見せしめのようになっている感すらある。官邸が逃げ切り、安倍政権の支持率が上昇、維持されるようなら未来はない。報道も、国民も踏ん張りどころだ。
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